女性に男物?

  山口瞳先生は律義な方で、いつも世話になっている各社の担当編集者と、日頃親交のある友人たちにお中元とお歳暮を欠かさなかった。
 ほとんどが男性だが、あるとき、名前に「子」がつく方が2名になった。
 お一方は、山口先生かかりつけの荻窪の病院の女医さんで、いつもたいていハンカチセットを贈られていた。
 ところが山口先生は、新しく贈答名簿に名前を連ねた「子」のつく方には、編集者たちと同じイギリス製靴下の詰め合わせを送るように指示された。もちろん、男性用の靴下である。
 鎌崎店長は、いぶかしくおもったのか、恐る恐る山口先生にうかがってみた。
 先生が、えっ、という顔をされてぼくを見た。あわてて名簿をのぞいてみると、男性でも「子」が付くわけがすぐわかった。
 藤田湘子(ふじたしょうし)。
 代表作に、「愛されずして沖遠く泳ぐなり」「月下の猫ひらりと明日は寒からむ」「月明の一痕としてわが歩む」。
 俳人だった。