ネクタイ 10-2

綿貫君が放り出した棚卸し用紙を見て、ぼくは驚いた。
 ふつう、棚卸しのときは、同じメーカーの製品は「品名別」にまとめて記入する。
 たとえば、ランヴァンのネクタイは、品名の欄(タイトル)に「ネクタイ」、メーカー名の欄に「フランス ランヴァン」と書き入れる。それから、値段別に分けて、品番の同じものはひとまとめに輪ゴムで止めておき、それぞれ本数をかぞえておく(このあとの説明は煩わしいだけですから、とばして、次の綿貫君が出てくるところからお読みください)。
 さて、そうしてまとめておいて、品番を記入し、単価を記入し、本数を記入すれば、その品番のネクタイの店内在庫数と金額がすぐに出る(品番:単価×本数=在庫金額)。
 同じ用紙に、行をあけて、別の品番のネクタイを同じように記入する。いくつかの品番が順に並んで、用紙が一杯になったら、本数と金額の欄をたてに足せば、当然、本数の合計と金額の合計が出てくるわけである。
「あのさ、綿貫君」
 と、ぼくは静かにきいた。
「これって、全部、1本ずつ用紙を替えて記入したの?」
 綿貫君は、うれしそうにうなずいた。
 綿貫君は、同じ品番のものも、1本1本、用紙を替えて、あのイタリー人もどきの独特の数字で棚卸しをとっていたのだった。それも400本近く。道理で分厚い用紙の束が転がり出るわけだ。
 ぼくは、砂糖部長の口調をまねて、いった。
「バカヤロ」