ネクタイ 11

 綿貫君が2年のフランス生活を終えて帰国したとき、ぼくと有金君にネクタイをお土産に買ってきてくれた。
「タカシマさん、どっちがいいですか?」
 1本はドミニクフランス、もう1本はダンヒルだった。
 ドミニクのほうは、あの独特の重厚な織ネクタイで、値段はおそらくダンヒルの3倍くらいしただろう。
「先に見せましたから、どちらでも好きなほうを取っていいですよ」
 そういわれると、なんとなくドミニクを選びたくなったが、ぼくはダンヒルを指さした。
「こっちがいいな」
 ダンヒルは、細身のシルクのニットタイで、薄いベージュに濃いベージュの横縞の柄だった。
 ところが、細身のニットタイはスーツには合わなかったので、この軽い感じのニットタイのために、軽いジャケットとコットンパンツを買わざるをえなくなった。
 コットンパンツには、それ用のベルトが必要になった。
 靴下も替えなくてはならなかった。
 しかも、この格好には黒のビジネス・シューズではおかしかったので、茶色のスリッポンを購入することにした。
 そうして、一式揃ってみると、今度はネクタイ1本では間に合わないことに気づいた(いつも同じネクタイというわけにはいかないでしょう)。もう1本、ダンヒルでシルクニットのネクタイを買うことにした。
 紺とエンジの横縞柄にした。そこで、はじめて、ダンヒルのシルクニットタイの値段がわかって、くれた綿貫君にわるい気がして、お礼にお多幸のおでんをご馳走した。あーあ、ただより高いものはない。ネクタイ1本のおかげで、ずいぶん散財させられた。
 有金君のドミニクは、彼のいつものスーツによく合っていた。