コート 13-4


 3着持ってきたコートの、残りの2着はどうなっただろう。
 桑名様のお宅をおいとましたとき、あたりはもう薄暗くなりはじめていた。ぼくは、さきほど、桑名様のお家が見つからなかったときのために、別の方にも目星をつけていた。ホテルのなかの美容室だが、きっとまだいらっしゃるに違いない。
 ぼくは、袋に紺のコートを1着だけつめて、受付けに声をかけた。あらあら、といいながら、奥から島村先生が顔を出した。そして、この日2着目のコートが売れた。
 翌日の最終日、パン屋さんのチェーン店の社長夫人を訪問した。いつも午前10時頃に起床されるので、11時におうかがいした。
「あんた、なんや、また連絡せえへんとやってきて。わたし、まだ、顔も洗ってへんのよ。もう、どないしょう。ええわ、上がって。難儀やなあ。どっこいしょ。また太ってまったねん。あははは。はい、こんにちは。いつから来てたのん? さよか、1週間もいたの。あんた、いいときにうち来ましたで。うちら、きのうまで、旅行やったんや。ハワイ。また行ってきましたねん。お父さんはゴルフ、毎日や。わたしは観光。向こうで世話してくれはる人がいてな。ナンシーとジョンいうねん。よくしてくれはるよ。車であっちゃこっちゃ見物や。1週間くらいやったかな。食べ物がちがうでしょ。おいしいてなあ。おかげさんで、健康です。食べるもん、なんでもおいしいの。だから、太ったでしょ? うん、やて。あんた、正直やなあ。いえ、そんなことございません、とかいうもんや。おばちゃーん!(おてつだいさんのこと)お茶や。お茶出してんか。タカシマさん来てるで。いつまでも風呂場掃除してんと、はよおいで。そんで、なに持ってこられましたか? うちら着るようなもの、あるんかいな」
 こうして3着目のコートも決まったのであった。めでたし。