コート 23

 税理士の花器沼先生とばったり出くわした。日曜日の銀座である。
「あんた、タカシマ君。銀座に勤めてるのに、休みの日にも銀座ブラブラしてるのかよ。変わってるねー」(尻上がりの茨城弁)
「そういう先生だって、毎日、銀座の事務所に通ってらっしゃるのに、そうやって休みに銀座歩いてるじゃありませんか」
 花器沼先生は、キャメル色のダッフルコートを着ていた。フジヤ・マツムラで購入された、イタリー製ジバンシーのアルパカのダッフルである。
「なにいってんのー。私服なら私用とは限らないでしょ。そういう短絡的な発想は、きみんとこの店長といっしょだね。気をつけないと、きみも禿げちゃうよ。 わたしね、きょうはね、客に会わないから私服ですけど、これから事務所に行って、ひと仕事するんです。まーた、空からお金がバラバラ降ってきちゃうよー」(くどいけど、尻上がりの茨城弁)
「先生、コートなんか着て、きょうは車じゃないんですか」
「コートなんかなんて、よくいうよー。きみんとこですすめられたんじゃないのー。ぼくは、ダッフルなんて、ふだんなかなか着る機会がないから、わざわざ電車に乗ってきたんだよー」(しつこいけれど、尻上がりの茨城弁)
「でも、よくお似合いですよ。七五三の子どもに見えなくもないですけど」
「あんたも平気でひどいこというねー。なんだよー、自分だってダッフルコート着てるくせに」(尻上がりの茨城弁。もう断る必要もないでしょうけど)
 ぼくの着ていたのは、イギリスのグローバーオールのコートだった。知ってる人は知ってるが、ダッフルコートのルーツである。
「しかしなんだなー、あんたのダッフルの生地は、粗悪な毛布みたいだねー、ゴワゴワしてて。おれなんかが着たら、からだ傷だらけになりそうじゃないのー。なんてったって、わたくし、繊細にできていますからねー」
 花器沼先生は、なめし革のような口もとをうれしそうにゆるめると、おもいっきり尻上がりの茨城弁でいった