指輪 4

「釜本君。S酒造のK様は、なんといって買ってくれたんだい?」
 不審気な表情で、鎌崎店長がたずねた。
「えーと、エメラルドを横向きにしたら面白いデザインやねえ、って」
 やや不機嫌な表情の釜本次長が答えた。
「面白いというのは、そういうデザインなら購入するということか?」
「購入するというか、してもいいっておっしゃったんだけど」
「してもいいというのは、買うということか?」
 鎌崎店長が、ねちねちと責め立てた。
「店長、刑事じゃないんだから、そういう質問の仕方、やめてくれない」
 憮然として、釜本次長がいった。
「おいおい、変なことをいうねえ。お客様がちゃんと買うとおっしゃったのか、それともいわなかったのかで、今回の返品の意味が変わってくるじゃないか。だから、ぼくは、そこのところを当事者の君にきいてるんだよ」
「どうだったっけ? タカシマ君」
 突然、次長がぼくに振ってきた。
「さあ、ぼくは、その場にいませんでしたから、わかりません」
 店長が、こんどは、怪訝な顔でぼくを見た。
「その場にいなかったって、じゃあ、どこにいたんだい?」
「車で待機するようにいわれたので、ずっと車で待っていました」
「外商に行って、お宅に上がらなかったというのか?」
「ええ」
「どうなっているんだ? 釜本君!」
 店長の眼が、刑事の眼にもどった。
「いや、その、あの、K様はむずかしい方だから、ぼくだけのほうがいいとおもって、彼には待っててもらったんだ」
「だったら、彼にどうだったかなんて確かめるのは、おかしくないか?」
「もういいよ。返品は返品なんだから。赤伝切ればいいんでしょ」(註、赤伝というのは、返品伝票のこと)
「よくないよ。なんだい、その態度は。売れてから1カ月以上経ってるんだぞ。返品は仕方ないけど、物品税の15パーセントはどうするつもりだい。もう、手続きしたって、もどってこない金額じゃないか。それに、あれは委託の指輪だから、ふつうだったら仕入れ先に返せるものが、修理したから買取になってしまったじゃないか。さあ、どうする?」
(つづく)