絵 3

 有金君が自動車外商で下保昭先生のお宅へうかがうと、ちょうど庭師のおじさんが木の手入れをしにきているところだった。
 有金君は、先生にAVONのスポーツシャツを何枚か選んでいただいた。すると、それを脚立の上から眺めていたおじさんが、先生、ええなあ、そのシャツ、と声をかけてきた。
「わしらが着せてもろても、よろしいやろか?」
「あ、そりゃあ、もう」
 有金君は、おじさんが冷やかしているのだとおもったが、おじさんは身軽に脚立からおりてきた。
 有金君は、おじさんに値段をわからせようと、一所懸命値札が見えるようにした。もしかしたら、町の洋品屋のシャツと同じつもりでいるかもしれない。その10倍の金額だと知ったら、おじさんに恥をかかせることになる。
 それでもおじさんは、有金君の気づかいをまったく意に介さずに、「わし、この柄にしときまひょ」と、1枚のシャツをひろげて見せた。
「それから、どうしたのさ?」
 ぼくは、有金君に先を促した。
「それから、ですね。おじさんは、2回の月賦でもよろしいか、ときいて、ぼくはもちろんオーケーして、そのあと3人で縁側にすわってお茶を飲みながら、おしゃれについて雑談しました」
 ぼくは、なんど自動車外商にうかがっても、とうとういっぺんも下保先生にお会いできなかった。いつもお目にかかるのは、奥様ばかりだった。おかげで、ドイツのコンテスの(ホース・ヘアを編んだ)ハンドバッグや、スイスのアクリスのシルク・コートや、ダイヤのネックレスのような、どれもこれも高価なものばかりお求めいただくことと相成った。有金君、ごめんね。