彫刻 14

 四谷荒木町の建築家、知多半島出身のE氏は、どうやら本気で彫刻にとりかかったようだった。
「彫刻をやりたかった建築家連中を集めましてね。これが結構いるんですよ」
 その夜も酩酊気味のE氏は、ちょっと膝を乗り出した。
「もうじき展覧会をひらくから、そのときはぜひ見にいらしてください」
 ぼくは、小さくうなづいた。いっしょに夜の当番をしていた荻馬場さんは、あいまいに笑った。
「今夜は、えらい人がだれもいないから、伝言してもらおうかな」
 E氏は、荻馬場さんにむかっていった。
「は? なんでしょうか」
 笑っていた荻馬場さんが、真顔にもどった。
「展示する作品を販売するつもりだから、ひとつおつき合いいただこうかとおもってね。上の人にいっておいてください。これがぼくの作品です」
 E氏は、サッカーボールほどの大きさの、丸い大理石のかたまりが写った写真を見せて、二十万円でいいですよ、といった。酔いで目が据わって、なんだかこわい顔だった。
「ほら、この店の入り口に置いたら、きっと素敵ですよ」
 翌日、荻馬場さんはいわれたとおりをハゲ店(鎌崎店長のこと。ハゲてるから)に伝えた。
「へえ、Eさん、そんなこといったの」
「とつぜん、わたしにいうんですもん。こまっちゃった」
 しかし、展覧会を開催するまえに、E氏は還らぬ人となった。あのサッカーボールのような大理石は、結局、E氏の墓のわきに飾られることになった。(どこかへの)入り口に置かれたことには違いなかった。