銀座百点 8

「銀座百点」No.1(復刻版)最初の広告は、「味の素」。
『月に一缶はお安いです』
 というキャッチ・コピーが、大きめの文字で目をひく。漢字にすべてフリガナがふってある。
『味の素100グラム缶
一個で吸物なら六五〇
人前の味を増します。
毎月五人家族に味の素
100グラム缶一個あ
れば、毎日お安くおい
しくお食事ができます』
 というコピーのわきに、缶入りの味の素のイラストと、実物大の小さじをつまんだ女性の指のイラストが描かれている。
 小さじの下にこんなキャプションがつけられている。
『この小さじ1杯の味の素は約0.15グラムで
お吸物1椀に入れる最低標準量です。』
 そして、頁の隅に、
『★一般食料品店にあります。
標準値段一〇〇グラム缶二六〇円
五〇グラム缶一四〇円』
 いまとは貨幣価値が違うから、値段が安いのは当然だが、5人家族が標準世帯だったことがコピーからわかる。
 ぼくは、このころ、まだ小さくて、口がうまくまわらず「あじものと」といっていた。もちろん、「あじのもと」のことだ。当時のわが家の食卓にも、当然のように並んでいたのだろう。
 ぼくがそういうたびに、親はたいそう面白がった。しかし、このままではまずいとおもったのだろう、「そうじゃなくてね」といって、父も母も、なんども直そうとしてくれた。
 そのときは直らなかったのだが、いつしか、自然に、間違わずにいえるようになった。けれど、ぼくは、両親の困ったような、それでいてうれしそうな顔が見たくて、いつまでも「あじものと」といっていた。