銀座百点 号外35

  それでは、万作さん選のわさびさん句を見てみよう。


    交差点恋や花粉やもやもやと
    春雨や傘さす人と別れたり
    無人駅夏草踏んで下り立ちぬ
    本棚の埃払って秋近し
    友の嘘独活の苦さのほどなれど
    端居してももひざすねと暮れていく
    紫陽花のパパは雨雲ママは虹
    黄昏れて夏草の帯締めなおす
    新月や結び目固き割烹着
    月住むや女の中にひとつづつ
    美しく枯れるは無理と紅を引く
    ぷっちんと風船蔓つぶす夜
    とりあへず靴を磨ひて松飾り
    火の粉散る屋台路地ゆく多喜二の忌
    春の雨木賊の陰から猫帰る
    待ちぼうけるると暮れゆく二重橋
    三鬼の忌色つき卵食ふ露人
    子供らの素足眺めて山笑う
    南国の夢胸に散る貝ボタン
    春陰や花街の女眉薄し
    ささやかな人生なれどサングラス
    小糠雨薔薇垣守の白き髪
    月の出や生まれて死ぬる水母かな
    うすものや愛想尽かしをはらみつつ
    夏やせの鎖骨にさはる浴衣衿
    土間といふタイムカプセル蝉時雨
    堅物に艶聞立ちて白桔梗
    イパネマの娘で始める夜長かな
    山茶花や呼んでもらへぬクラス会
    白足袋を買ひに青山ゑり華に
    色町やえくぼの底に霜柱
    花冷えやハスキー犬の目は青く
    つばくらめ両親といる夢を見た
    そら豆や愛嬌者で実もある
    モノクロの映画見ている緑夜かな
    月の夜に言わぬが花が咲きにけり
    一枚のコートが知ってる男たち