銀座百点 号外36

  鶉さん選のわさびさん句も見てみよう。


    豆をまくまけどもまけども鬼は内
    濁り酒五臓六腑に百八つ
    年波の寄せては返す彼岸かな
    友の嘘独活の苦さのほどなれど
    タンポポとヒポポタマスに天気雨
    永遠は八十八夜の子守歌
    落花竜巻となりてバスを待つ
    以後一線引こうと開く春日傘
    満月に剥けばこぼるる夏みかん
    逆光の日傘の中のエゴイスト
    端居してももひざすねと暮れていく
    稲妻に光る鯨は海に満つ
    遠雷や引越し済んで一人なり
    心太陸に上がった海の色
    炎天に庇を借りた本屋なく
    月住むや女の中にひとつづつ
    秋天にアンリルソーの飛行船
    柚切りしペティナイフをそのままに
    欠片をつなぎあわせて雪女
    バレンタインの心静かにやじろべい
    手袋をぬいで嘘つく日本髪
    火の粉散る屋台路地ゆく多喜二の死
    春の雪太郎も次郎も眠れない
    飛行士は薔薇と王子は思へりき
    子供らの素足眺めて山笑ふ
    弥生尽告知終えたるガブリエル
    過ぎし日を竿に干したり昭和の日
    つもりしは竹の落ち葉と恨み言
    著莪の花洒落た年寄り群れており
    香水の力を借りる日憂鬱な日
    夏やせの鎖骨にさはる浴衣衿
    ラジオ体操一二三四立葵
    土間といふタイムカプセル蝉時雨
    休暇明け横顔幼き担当医
    終戦日書類音なく崩れたり
    夏座敷飼ひ殺したる思ひあり
    赤とんぼカレーの名店ありし町
    衣被フランス土産の塩つけて
    イパネマの娘で始める夜長かな
    山茶花や呼んでもらへぬクラス会
    枯野行く一方通行誕生日
    白梅のぽつりと咲いて土俵去る
    菜の花やホットケーキに蜂蜜を
    花冷えやハスキー犬の目は青く
    つばくらめ両親といる夢を見た
    大男気はちひさくて桜餅
    ルノアール薔薇色の裸婦夏は来ぬ
    夏野行く犬の尻尾が右左
    空豆を剥いている間のトロイメライ
    水色のリボンの子猫夏館
    花火大会あっけらかんと帰る道
    酉の市母にはぐれし夢の中