銀座百点 号外42

 そろり会は、ちょうど3年前に発足した。大木あまり先生にご指導いただけたのは、僥倖以外のなにものでもない。愚鈍な飛行船に、それが多少なりともわかってきたのは、いい加減日が経ってからのことだ。そのおもいは、日を増して強くなってきている。いい道具が揃えば、仕事の半分は終わったようなものだ、という言い方がある。そのひそみにならえば、師の選択ひとつでよくもなりわるくもなる。わるく転ばなかったのは、お仲間諸氏にとってもさいわいであった。
 句会でお仲間のどなたにも採っていただけない句も、あまり先生は積極的に拾ってくださる。そして、批評が加えられる(あまり先生に拾っていただくことで、お仲間が見直してくださることもないわけではない)。師の曰わく、選句も勉強。
 といった次第で、あまり先生に救われて辛うじて残った飛行船句は、以下の通りであります。


    髪脱けて慈姑の如き女房かな
    春おぼろ遠き故人とすれ違う
    熱燗にふれてつまみし猫の耳
    春分といふ分岐点をまたぎけり
    飼ひ猫の妻に似てくる四月馬鹿
    池の水にごりて梅雨の空がある
    新緑の新子寿司政九段下
    花よりも葉が美しい五月かな
    蜜蜂の花粉にむせて夏は来ぬ
    いまここにこうしてゐる夏の暮れゆく
    夕立に森の魔王の眼は開く
    日の濃さを口に含めばマスカット
    天の花浮かべ流るる夜の河
    花火消へ濃くなりまさる闇の色
    端居して月光白き庭を見る
    コスモスの夢たをやかに風に揺れ
    満月や舗道に二つ影法師
    月天心おくれて渡る雁一羽
    眠られぬ夜は月光の庭に立つ
    さりながら日没閉門土瓶蒸
    南天の実の掌になほ赤し
    ポインセチア無言で愛を語るなり
    数珠玉の数珠枯れてをるおもちや箱
    下町は今宵にぎはふ三の酉
    年の瀬や天気予報は外れがち
    春燈のともれど暗き書斎かな
    春の空飛行物体かき消へぬ
    長安男児ありける日永かな
    片栗の花一輪や武相荘
    短夜や子等の寝息の安らかに
    長雨に耐へて白及の咲きにけり
    十薬や好きな女の耳飾り
    芋の葉の露白々と明易し


 残りの大木あまり選飛行船句は、明日に。