銀座百点 号外41

では、万作さん選飛行船句。


    幼子の掌よりこぼるる雛あられ
    春一番吹いて机上は砂漠かな
    漆黒の闇匂ひ立つ沈丁花
    睡蓮の夢見る如き寝顔かな
    鉄塔に少年の夏輝けり
    百日紅父の墓前の煙草かな
    白犬の路地ふさぎをる暑さかな
    夏祭り狐の面の笑みもらす
    すり減りしポケットの本夏惜しむ
    寺町や茶を焙じをる路地の奥
    掌の中の宇宙淋しき実紫
    秋燈に短冊の文字立ち上がる
    何となく手持無沙汰や文化の日
    まづ二礼何を祈らん酉の市
    邯鄲の夢さめやらず蜜柑食ふ
    煩悩を一つ残して年を越し
    春まだき吐息の中の蜃気楼
    短日や研ぐ米こぼれこぼれたり
    春の宵ふと道迷ふ坂の上
    君の眼の五月の鷹を解き放て
    眼を伏せし男の嘘や桜桃忌
    蜘蛛の糸一筋風に流れたり
    紫陽花や濡れし女のふくらはぎ
    心太ひと口海を頬張りぬ
    空きびんを透かして夏の空を見る
    花売りに花捧げんか巴里祭
    秋風や路面電車の停車駅
    琥珀色の酒を秋の水で割る
    十月の蜂閉じこめしインキ壺
    銀杏散る所詮女は度し難し
    煙突のある風景や風疼く
    寺院への道さびれをり十二月
    雪だるまとり残されて夜の町
    赤錆の鉄路に近く豆の花
    麗らかや樹々をこぼるる陽の光
    ふらここやゆきつもどりつあてどなく
    桜桃の種のゆくへや太宰の忌
    誘蛾燈夜半に目覚めて雨を聴く
    月光にふるへる妻の睫毛かな
    外套に虫喰ひの穴純老人
    寒燈下大木あまりに叱られる