銀座百点 号外44

田村隆一全集」の第6巻を購入。これでめでたく全巻揃ったことになる。
 巻末の「解説エッセイ」は、長谷川郁夫。最近、いまどきの本はぜんぜん読まないから、この解説者も知らない人だ。いま、調べたら、「元小澤書店社長、文芸編集者、評論家、大阪芸術大学教授」とあった。小澤書店なら知っている。本棚に何冊かある。小澤書店はなくなったのだっけ?
「解説エッセイ」の題名は、「文明論の詩人ーー評伝ふうのエスキス」。このなかに、大人の詩人の条件がいくつかあげてある。


一、平明な詩。意味はどれほど深くとも、奇想、奇抜な飛躍が行間に認められても、曖昧な表現は使わない。
一、一級の趣味を持つ。
一、文章家。文体を持つ散文家であること。
一、懐かしい人格であること。詩語(註、詩人の誤植か)は陽性であるのが望ましい。
一、美酒少々。


 ぼくがフジヤ・マツムラに勤めてすぐ、ひとりで田村さんの稲村ヶ崎のお宅にうかがった矢村海彦くんから、替え上着がほしいからタカシマさんの店に行こうかなって田村さんがいってましたよ、とおしえられた。田村さんが店にきて、うん、これがいい、これにしよう、といって替え上着を着て帰ったら、ぼくが立て替えるハメになるかもしれない、と即座におもった。そういう印象が詩人、田村隆一にはあった。
 フジヤ・マツムラにある替え上着といったら、どれも舶来の一流品で、フランス製のランヴァンにしても、イギリス製のチェスターバリーにしても、どれも三十万円は下らなかった(昭和52年当時で)。ぼくは、しばらく悩んだ末、もしそんなことになったら、毎月一万円ずつ返済してゆくことにしよう、と悲痛な決心をした。