銀座百点 号外46
「連作詩『5分前』はその当時の作品。」と、長谷川郁夫の「解説エッセイ」はつづく。
やっと部屋が
部屋らしくなった
窓には白いレースのカーテン
小さな庭には秋草の花
朝の光り
午後の夢
夜の沈黙
それから
眠ることが愉しくなった
シェリーを一杯飲んで
個人よりも人類を
家庭よりも社会を
愛することが
どんなに健康にいいか分ってきた
では
おやすみ
(「レインコートが出て行ってから」)
しかし、長谷川郁夫は、同時期に別の雑誌に発表された、田村さんの呟きにも似たこんな一篇を見逃さない。
いま
鎌倉から五十キロ北上した雑木林の中を歩いていると
ぼくの心に
海がくっきりとよみがえってくるのだ
(詩集「小鳥が笑った」・「鎌倉遠望」)
田村さんは、出奔してから一年後に一人で鎌倉に戻ってくる。しかし、それは本当の帰還ではなかった。じきに、同じ鎌倉の二階堂に移って、また別の女性と暮らしはじめる。
詩人田村隆一は、ぼくからも遠いところに行ってしまった気がした。