銀座百点 号外55

 最近は、さがしものがスムースに見つからない。それよりもなによりも、探したいとおもっている事柄が至極あやふやである。落語に、「私のさがしてるものは、なんでしょう?」というオチがあったようにおもうが、これも曖昧なのだから困る。
 矢村海彦君に与太者みたいといわれた話をした。しかし、当時、ぼくは物書きはアウトローでいいとおもっていたから、むしろ矢村君の考え方に驚いたくらいである。
 ぼくがさがしていたのは、吉行淳之介安岡章太郎の対談で、慶応大学の文学部に通っていた安岡が明治大学のグループと懇親会をひらいたとき、その席に居合わせた男についての思い出話である。
 安岡章太郎は、その集まりに来ていた背の高い痩せた男が、陽気に文学論をぶっているのを目にする。
「長髪をポマードで固めたような髪型の、非常に軽薄そうな男で、ひとり上機嫌でぺらぺらとまくしたてており、まるで当時のイカレポンチを絵に描いたようなやつだったが、いまおもうと、あれが田村隆一だったのではないか」
 と、そのときの印象をのべていたようにおもうが、どうもさだかではない。
 で、なんでこんなことを言い出すかというと、「みんな不良少年だった」ことを検証したいからである。また、横道にそれることになるけれど。