銀座百点 号外76

 こういうことすべてが、今にしておもえば私の文学に微妙につながっている。しかし私は、旧制高校に入るまで芸術という分野がこの世に存在していることを知らなかった。異常のようだが嘘のないところである。むしろ、文庫本を読んだりする中学生を軽蔑し、高校では文化部に入らず運動部に入った。


 以下、一層断片的になる。
 私は明晰なものしか信用しない。一枚で書けることに、十枚を費やすのも芸の一つであるが、その場合も明晰でなくてはいけない。ただし、私自身は一枚で書けることは一枚で書くように心がけている。


 先日、河盛好蔵氏からいただいたユーモアについての本に、「彼は何でも知っているが、何も分らない」「彼は何も知らないが、何でも分る」という文句が並んでいて、甚だ面白くおもった。どっちもどっちかもしれないが、どちらかを選べといえば、後者になりたい。
(つづく)