銀座百点 号外98

 ・・・私の作品の載った「群像」が発売になって一カ月近く経ったある日、「週刊××」(註:原文には実名で出ているが、作者はその後和解しているので、匿名にします)の編集者であり友人である高原紀一が、困った顔でやってきた。私の作品を下敷にして、M・Mと私との愛情問題についての記事を書くことになったから、取材にきたという。そういうことを書かれるといろいろ迷惑するし、またあの作品を告白記と見做しての取材に作家としての私は応じる気持はない、と答えた。
 私が取材に応じなくてもその記事は出ることになる。どうせ出るものなら、誤解のないような記事になるように協力してくれたほうがいいようにおもう、と彼はいう。私は答えて、「週刊××」がその記事を書くことを止める権利は自分にはないだろうから仕方がないが、取材には応じない、といった。高原と私とは終始冷静に話合ったとおもう。
 プライバシイという言葉も思い浮かばぬものではなかったが、作家のプライバシイには、いりいろ微妙な問題がからむ。今度の問題は、自分で蒔いた種というところもある。それよりも、私の頭に浮かんだのはエチケットという言葉である。
(中略)その記事は題名を訂正しただけで「週刊××」に出た。
(つづく)