綴じ込みページ 猫-10

 すぐに俳句のお仲間から返信が来ました。猫との同居生活仮免許中のぼくを、みなさん応援してくださっているのでした。


「わさび様/柚様/万作様/そろり会の皆様


励ましのお便り、有難うございます。


11時過ぎに簡単な昼食をすませてから、冷蔵庫の隙間をのぞきましたら、猫は香箱をつくってじっとしていました。足首だけ、交互に踏み踏みしています。手を出したらいやがるかもしれないとおもって、やさしく話しかけました。はじめて写真を見たとき、ビビビときたこと。たいへんなおもいをして、ようやくうちにきてもらったこと。なんてかわいいんだろう。なんてすてきな柄だろう。大好きだよ。ずっと大事にするよ。だから、だから出てきておくれ。


そっと手を出すと、ぼくの指を鼻先でかぎました。噛まれてもいいや、とおもってのどに手をやりました。じっとしています。のどをなでました。目を細めています。頭もなでました。目を細めています。ひっぱり出すにしても、つかみどころがありません。朝からエサを食べていなかったのを思い出して、お皿を隙間の入り口で見せました。エサを見ると、ゆっくりと出てきました。しかし、あわてて食べるふうでもありません。猫サラダといわれる草も置いてありますが、この草を食べはじめました。そのあと、ぼくの足にからだをすりつけてきました。ぼくも、猫のあごと頭と顔と背中とおなかを、もみくちゃにするようになでました。猫は、なにかにすりすりするたびに、いちいちもどってきてぼくに甘えました。ぼくは、テントウムシのかたちのラバーのくし(ドイツ製。猫よろこぶ)で、猫のからだじゅうをすきました。季節柄か、すごい抜け毛です。いちいちすりすりされて、こちらの5年もののユニクロのフリースも一面毛だらけです。


それから、猫はひとときもぼくを離れません。ちょっとどこかにとんでいっても、すぐにもどってきてすりすりします。こちらも名前を呼んでなでなでします。


しからばご報告を、とおもってパソコンにすわりましたら、机にとびのってきて、ディスプレイとキーボードのあいだに立って、ミャア、と鳴きました。ミーヤ、それじゃあ、打てないじゃないか。ミーヤは、まったくもう、といって畳におりました。いま、炬燵のぼくの座布団のとなりで、所在なくテレビのマラソンを見ています。目があったら、わざと大きなあくびをしてから、ぼくの足もとにきました。頭をなでると、はやくね、といいました。そして、ぼくのうしろにキャットタワーがありますが(じつは、キャットタワーも用意しました)、そのてっぺんにのぼり、壁の鴨居をうかがっているところです。


以上のような次第で、一挙に距離が縮まりましたから、ご心配くださった皆様、なにとぞご休心ください。ぼくの猫は、里親ボランティアのお宅では「ニコ」と呼ばれていましたが、ぼくは「ミーヤ」と呼んでいます。ぼくが1歳のとき、おとなりに三毛猫がいて、生まれてはじめて撫でたその猫がミーヤだったそうです。三毛猫にこだわったわけは、自分の記憶にない幼児期体験が(それは母親の昔語りで、くり返しくり返し出てきましたから)、作用したのかもしれません。


では、ミーヤが待っていますから。
皆様、(おいやでしょうが)またご報告申し上げます。
飛行船」