綴じ込みページ 猫-27

 数日前、眠っているミーヤを抱いていたら、伸びた爪が目に入りました。ほとんど凶器です。そこで、そっとミーヤをおろすと、テーブルの箱から爪切りを取り出しました(この爪切りは、インターネットでみつけたのですが、ありがたいことに定価の半額になっていました。ところが、申し込んでからよく見ると、送料が必要でした。しかも爪切り本体の金額より送料のほうが高かったのです。ちかくのデパートで定価で購入したほうが安かったわけで、まったく安物買いの銭失いでした)。
 箱の音で、ミーヤはいったん目をひらきました。しかし、しばらくぼーっと遠くをみつめていましたが、また目をつむりました。これくらい眠そうなら安心です。
 ミーヤを抱き上げると、右手(右の前足)の親指の爪を、肉球を押して出しました。ハサミ型の爪切りの小さな穴に指を通そうとしているうちに、またミーヤが目をあけました。ぼーっとしていますが、爪切りは目に入ったようです。いそいで親指の爪を切りました。成功です。
 欲張って人差し指の爪を切ろうとしたとき、急に手をよじって逃れようとしました。激しい抵抗です。後ろ足ももがいてあばれます。切れたかな、とおもったとき、腕を振りほどいて手を引っ掻いていきました。そして、そのままキッチンの上から冷蔵庫の上まで跳んで逃げました。
 痛いので見ると、手の甲に爪の跡がありました。これは爪が刺さった跡です。掌を返してみると、2センチほどの裂傷ができていました。血が盛り上がって、流れ落ちるところでした。すぐに蛇口の下で傷口を洗いました。けっこう、深くえぐれているようです。救急箱のなかをさがしましたが、傷口に貼りっぱなしにしておく、バンドエイド(のキズパワーパッド)が見当たりません。ティッシュペーパーで傷口をおさえながら、坂の下の薬局までいそぎました。
 キズパワーパッドを購入してもどってくると、ミーヤはいつものように出迎えました。ミャーといって頭をすりつけてきます。
「ちょっと、待ってて」
 ミーヤは、待ってて、というと、ちゃんとすわって待っています(きみは、犬か?)。
 もう一度、水道で傷口を洗ってから、キズパワーパッドを貼りました。これで安心です。
「ミーヤ」
 と呼ぶと、ミーヤはノコノコやってきました。頭と首をなでてあげます。
 どんなに仲良くなっても、猫は野性的な動物です。反射的に行動します。そのおかげで、何千年も生き延びてきているわけです。
 ミーヤは、ぼくの掌をなめました。そして、キズパワーパッドに舌がさわると、「これ、なに?」という顔でぼくを見上げました。
「これね、ちょっと失敗したんだ」
 ぼくは、ミーヤの顔を見て、にっこりしていいました。もちろん、ミーヤがやったんだろなんて、けっしていいません。