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「FE」の質問に、スティーヴ・マックィーンの元マネージャー、ヒラルド・エルキンス(HE)が答えている。


FE:およそ役者はビジネスに関しては無関心ですが。
HE「スティーヴはビジネスに関しても細かく注意を払っていた。ただ、作品1本につき数千万ドルもの価値のある男だったが、本人としては数百万ドルでも大満足だったんだ。スティーヴが仕事を請け負う時は、まずは前払金を手にしてから実際に演じ、完成した時点で残りの半分を受け取るシステムだった。もし、途中で仕事を断ることがあれば前払金はそっくりそのままクライアントへ返金していたよ。」
FE:映画出演の際、彼は多くのギフトを要求していたようですね。例えばそんなに数を履かないのに『リーバイスを10本持ってきてくれ』などと。
HE「そのギフトのほとんどを、出身校のボーイズリパブリックに寄付していたんだよ。彼はそのような行為を公にしなかったがね。」


FE:後年は”チープな男”、”金に関してだらしないと同時にケチな男”という言われ方もしていましたが。
HE「スティーヴが育った厳しい環境を思えば、多少は理解できるのかもしれない。『傷だらけの栄光』(端役として出演)の日給は19ドル。そこから彼は這い上がっていったんだよ。事実、普段は1セントも持たずに過していた。どこへ行っても誰といても自分からお金を払おうとしない。しかし、同時にとても心の大きく寛容な面もあった。彼自身、かつて通っていたボーイズリパブリックという教護院にたくさんの物とお金を寄付していた。あらゆる面で二面性を持つ男だったが、矛盾するその二面性が役者としての素養を育てたのだと思う。」


FE:失敗作は?
HE「『栄光のル・マン』だ。スティーヴ自身、それは心から愛する作品となったが、情熱を注ぎ込みすぎ、完璧な作品として成就することはなかった。彼は人選を誤り、『荒野の七人』や『大脱走』を撮ったジョン・スタージェスは途中で降りてしまった。失敗した点は何よりもまずレーシングシーンが先にあり、そこにストーリーがついてくるという作りにしてしまった点だ。まずはストーリーがあって、レーシングを題材として使うスタンスでないと作品として生きてこない。あまりにもレーシングを愛していたから、作品として見る冷静さを欠いてしまっていたんだ。」
FE:『ティファニーで朝食を』『オーシャンズ11』『明日に向って撃て』といった名作のオファーを断ったというのは事実ですか?
HE「イエス。理由は簡単だ。自分向きの役ではないと思ったから断った。それだけだよ。」
FE:彼自身、最も思い入れのある作品は何でしたか?
HE「『ブリット』だ。スティーヴは役に惚れ込んでいた。スターがあそこまで自分でスタントをこなしたのは初めてだった。彼はそれをとても誇りに思っていたよ。」


え? ちょっと待って。じゃあ、あの『大脱走』のときの柵越えのスタントは、バイクで鉄条網を飛び越えたのは彼自身じゃなかったていうことかね。
(つづく)