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「バド・イーキンス、1930年ロサンゼルス生れ。50年代にトライアンフのトップレーサーとして活躍。1968年には全米ナンバーワンのトライアンフディーラーとして年間700台を売り上げる記録を樹立。親友スティーヴ・マックィーン主演の映画『大脱走』での歴史的な柵越えシーン、『ブリット』のカーチェイスなどスタントマンとして歴史に名を刻む。」(「Free&Easy」)


 FEの特集「マックィーンから教わった」のなかの1章「バイクという遊び道具に目を輝かせた男」では、元スタントマンのバド・イーキンスの証言が載っている。


FE:まず何よりも先にお聞きしたいことがあります。映画『大脱走』の柵越えのダイブシーンで、マックィーンは最後の最後まで自らダイブすることを望んでいた。しかし、製作サイドから保険との絡みでストップが入った。そのため、代わりにあなたがスタントマンとして飛んだ、と言われています。しかし、本当の所はどうだったのですか?
バド・イーキンス(以下、BE)「ずいぶん美談として語り継がれているみたいだけど、事実とは大きく違うね。スティーヴは自分には柵越えジャンプが出来るほどの技術がないことを承知していたし、やるつもりすらなかった。これが事実だ。『映画の撮影で柵越えのスタントがあるからドイツまで来てくれ』って俺に頼んできたのはスティーヴ本人だった。もし自分で飛ぶつもりだったらわざわざ俺にスタントを頼むことはないだろう」


FE:マックィーンがデザートレースにのめり込んでいったのはあなたの影響が大きいと思いますか。
BE「俺が知り合った頃、スティーヴはレースについて全くの無知だった。ある日、俺のショップに遊びに来たスティーヴが、ヘッドライトもテールランプも付いていない俺のバイクを見て、『これはなんだ?』って聞いてきた。説明するよりも実際に見せたほうが手っ取り早いと思い、『俺に付いてきたら分かるよ』と言って、ヤツをレースに参加させたら、とても気に入ったようで、俺たちと一緒に毎週参加するようになったんだ」


FE:真の友人であるあなたから見た、マックィーンの最大の魅力とは?
BE「彼は映画スターだったが、自分は特別な存在だという素振りはまるで見せなかった。誰に対しても敬意を払って接していた。その姿勢は素晴らしいと思う。一度決めたら最後まであきらめない精神力も彼の魅力の一つだね。頑固という言い方も出来るがね(笑)」


FE:マックィーンの言葉で、あなたが最も印象に残っている言葉は何ですか?
BE「スティーヴと一緒にボストンまでバイクを買いに行ったことがある。ヴィンテージのバイクを25台所有しているコレクターがいて、どれも1915年代に作られた歴史的に価値のあるバイクだった。スティーヴはコレクターが提示したプライスリストを見た瞬間に、『OK全部買うけど条件が一つある。10%ディスカウントしてくれ』って言ったんだ。彼は交渉人としても一流だったね。その場で65000ドルの小切手を渡し、25台のヴィンテージバイクを全て手に入れたんだ」
(つづく)