綴じ込みページ 猫-44

 カミサンの三回忌に、ぼくにしてはめずらしく、立上がって挨拶をしました。


 本日は、みなさま、ご多用のところを朱実の三回忌にご参列賜り、誠に有難うございました。本来でしたら、当の本人がご挨拶すべきところですが、かわって私がお礼を申し上げます。


 ご存じのように、家内がなくなりましてから、猫を飼いはじめました。三毛猫で、名前はミーヤです。いまでは、帰宅して蛇腹の門を開ける音がすると、縁側まで出迎えに飛んでまいります。飛んできて、お腹を上にして甘えます。


 でも、朝は見送りません。朝はたいてい、反対側にある硝子戸のレースのカーテンのかげから、裏庭とその向こうの路地を眺めています。で、声をかけると首だけ振り返り、あ、きょうもどっか行くんだ、という目をします。


「パパはお出かけするから、ちゃんとご飯、食べるんだよ。危なくないように遊んでね。いたずらしてもいいから、怪我しないでね。ゆっくり寝てなさい。ミーヤのこと、大好きだよ。じゃあね。行ってくるね。待っててね。よろしくね」


 最近、じっとこちらを見つめるミーヤを見ていると、なんとなく朱実に見えるときがあります。朱実は、死んでもすぐにぼくのもとに帰ってくる、と約束しました。それで、おもわず、あけくんか、と猫に声をかけたこともあります。そんなわけないか、とそのときはわざと声に出して打ち消しました。


 けさ、出がけに、ミーヤがしっぽを立てて、のっそりと寄ってきました。そして、私を見上げると、早く帰ってきてね、といいました。


 それでは、なにもございませんが(法事でも、なぜかフランス料理)、まずはシャンパンで献杯といきたいとおもいます。長老、献杯の音頭をよろしくお願いします。では、献杯