綴じ込みページ 猫-55

 ぼくが一大事業を起こしたとき、和田誠先生にマークを描いていただいた。ぼくは、奇跡としかおもえない事柄にいくつか出くわしたが、一面識もない和田先生にマークをお願いしてご快諾いただけたことも、もちろん、その筆頭である。
 マークは、ヒョウである。うしろをふり返っているかわいい姿のヒョウだ。なぜ、ふり返るヒョウなのか。それは、ヘミングウェイの「キリマンジャロの雪」を読めばわかる。
 和田先生のお宅にはじめておじゃましたとき、飼い猫のシジミが居間にいた。和田夫人がお茶を淹れてくださっているあいだ、ぼくは和田先生の絵本で知ってるシジミの頭と背中をなでていた。シジミは、(迷惑だったかもしれないが)ぼくにじっとなでさせてくれた。