綴じ込みページ 猫-56

 また、平凡社作家の猫」より。


 ある晩、黒猫をつかまえて 
 鋏でしっぽを切るとパチン!
 と黄いろい煙になってしまった。
 頭の上でキャッ! という声がした。
 窓をあけると、
 尾のないホーキ星が逃げて行くのが見えた。
 (「黒猫のしっぽを切った話」『一千一秒物語』)


 志代夫人は、著書『夫 稲垣足穂』で、猫と足穂についてこんなふうに書いている。
「稲垣の身辺から夜も昼も離れないものに、猫と聖書と広辞苑がある。
 机の前でうつむき加減に書きものをしている彼の、幅広い肩の上に茶色の猫がとまる」
 猫が書きものや座布団の上にすわると、猫がどくまで足穂はじっと待っていたという。また、この茶色の猫ミイが日当りの良い縁側で寝ているのを見た足穂は「漬かりすぎた奈良漬が干してあるようだ」と楽しそうに語ったとも。
 このミイに続いて、白い子猫のカカとピピ、そして崖をはいあがってきて鳴いたのを足穂が拾ってきたトラ猫のカァと、稲垣家には猫が居つくようになった。特にカァは足穂と一緒に食卓につき、来客時にとった弁当の中に刺身があると、足穂はまずひと切れ、カァにやったというから、すっかり家族の一員だった。
 それを見て呆れた友人が同じ弁当を食べながら「私どもは猫なみですから」と嫌味を言うと、足穂はこう答えた。
「いや、猫のほうが上品ですよ。しかしヤツは女によく似ていますよ。傲慢で、気取り屋で、おしゃれで、ぜいたくで気ままもので勝手次第。ちょっとさからうと爪でひっかく」(『夫 稲垣足穂』)


 吉行淳之介が『湿った空 乾いた空』のなかで、同居人MMについて語ったこととなんとなく似ていて、なんだかおかしい。