綴じ込みページ 猫-57
盛り場から夜遅くパリの石だたみを歩いての帰りみち、
フト足にからみつく猫があって、
不憫に思って家に連れてきて飼ったのが
1匹から2匹、2匹から3匹となり、
それをモデルの来ぬ暇々に眺め廻し描き始めたのが
そもそものようです。
ひどく温柔(おしとや)かな一面、あべこべに猛々しいところがあり、
二通りの性格に描けるので面白いと思いました。
(『巴里の昼と夜』)
こういっているのは、藤田嗣治。
平凡社『作家の猫』の「藤田嗣治」の章には、猫を抱いた藤田の写真と「猫」という題の作品が載っている。作品にはキャプションがついていて、「『猫』1940年。発表時は「争闘」と題された。十数匹の猫が本能むきだしで争う様子がダイナミックに表現されている」とある。
美術史家、山下裕二という人の談話が寄せられている(「フジタは世界最高の猫絵描き」)。
「僕自身、猫が好きで、小学生の時に捨て猫を拾って以来、ずっと猫を飼っています。猫好きだから逆に、猫の絵はついつい、厳しく見てしまうんですよ。(中略)日本画では竹内栖鳳の「斑猫(はんびょう)」という作品も好きですが、藤田嗣治は古今東西で最高の猫絵描きだと、僕は思っています。(中略)筆で描かれたフジタの猫のキリッとした口角、あれがいい。猫というのは、決して笑わない動物でしょう。それが見事に表現されている」
うちのミーヤは、笑うんですけど。