綴じ込みページ 猫-61

 大木あまり先生に「猫二〇〇句」という句集があります(ふらんす堂より、二〇〇四年一二月一二日初版発行)。藤木魚酔さんという俳人と共著です。ですから、大木先生の句は、半分の百句となります。
 この句集は、大木先生のファンはもちろん、おもに猫好きの俳句好きが購入した模様で、どうやら手放すことが皆無にちかく、滅多に古本屋に出まわりません。たまに見つかっても、法外な値段がついています。そこで、読みたくても読めないでいるあまりファンと猫好きのために、大木先生の句だけを抜き出して、「句集 猫百句」という海賊版をご披露することにいたしました。
 句は、春、夏、秋、冬/新年に分かれており、扉に先生のしゃれた猫のカットが描かれています。そして、それぞれの季節に「題」がついています。


 春  「熱き舌」


   春風のやうに猫きて糞をせる     (糞:まり)
   猫の子のはやばや闘志みせにけり
   子猫にも熱き舌あり花杏
   子猫の爪切つてベニスへ行く話
   菜の花や猫の柩は布一枚
   猫死んで若布の桶に日がいつぱい
   招かざる猫の来てゐる雛祭
   出不精猫桜は待つてくれません    (出不精猫:でぶしょうねこ)
   春荒や子猫は土器の匂ひして
   猫のタオルごはごは乾く春の暮
   細魚たべ猫よ真昼をはかなくあれ   (細魚:さより)
   この家の喪の色にして恋の猫
   あやまちは猫飼ひしこと水うらら
   春の地震あり定位置に招き猫     (地震:ない)
   恋猫に眠らぬ町のごみ袋
   O嬢に拾はれ子猫目を張れり
   傷つきし猫をかくまふ花の闇
   我が猫の不器用な恋静観す
   フランスパンにこはごは乗つて子猫かな
   恋猫や雨を吸ひたる新聞紙
   春は曙鑢のごとき猫の舌       (鑢:やすり)
   恋猫を羽交ひじめして男の子
   蘆の角猫にも思想ありにけり
   猫つるむ海底のごと春の闇
   風筋に我を待つ猫春の暮
   恋猫や世界を敵にまはしても
   恋猫は絵本のなかに帰りけり