綴じ込みページ 猫-89

 平山三郎「雑俎」はつづく。


 阿房列車に関連して先生の事を色色書いて見ようと考えているのですが、もし出来上がって本になるようでしたら、何か跋文の様なものを書いて戴けないでしょうか。
 先生は暫く憮然として私の顔をながめていたが、やがてこう云われた。
 それは平山君、駄目だよ。貴君が僕のことを書くのは、それは仕方がない。何を書こうと勝手だけれども、僕がその本に跋文を書くなんて、そんな、うわあごに物が食っついたようなことは、僕はいやだよ。ーー御免蒙る。


 本が出来上がった。自分の著書は初めてではないが、非常に嬉しい反面非常に不安でもある。少しも早く先生に見せなければ申訳が立たない様な気持である。出版社から本を受取るとその足で四ッ谷の先生の家へ廻り、先生の前に恭しく差出したら、いつも私が編纂校正している先生の本が出来上がった時と同じ様な気持になった。ーー本を手に取って、ゆっくり頁を繰っておられたが、やがて、長嘆息する様な調子で感想を洩らされた。
 平山君、この本は、まるッきり、全然、売れないか、そうでなければ、飛んでもな売れて売れて、始末に困る・・・そのどッちかだね。僕が保証するよ。
(つづく)