綴じ込みページ 猫-121

 さて、「田村隆一とネコ」である。


「ネコには普段、猫用の缶詰をあげてましたけど、一缶じゃ足りなくて、もっと欲しがってね。」


 田村夫人の述懐はつづく。


「主人はフグが好きでしたけど、ネコも好きで、フグを見るとパーッととびつくの。晩年、ネコの口が歯槽膿漏みたいになって、何も食べられなくて。それでも、フグの小さなお刺身をやってみたら食べましたもの。」


「マグロの赤身も大好きで。主人は、マグロは赤身じゃなきゃだめだって言うのね。でも猫に上等なのはあげられないから、主人の分は紀伊国屋で買って、ネコのは一番安い魚屋で買って。」


「そして主人は秋には栗が食べたい、松茸が食べたいって言うんです。贅沢でしょ。それで松茸を裂いて焼いているとネコも欲しがるの。あげるとしばらく、くちゃくちゃ、噛んでいましたよ。ヘンな猫でしょ」
(つづく)