綴じ込みページ 猫-186

 三毛猫は、猫のなかでも長生きだそうである。わさびさんがそういっていたから、間違いないだろう。


 ミーヤは、今年で九歳になる。東日本大震災のひと月前、四歳のときにぼくのもとにきた。人間の年に換算すると、いま、五十三歳二ヶ月だそうである。


 ミーヤは、以前はひとが目覚める頃、お腹にのってきた。お腹に寝そべって、喉を撫でろという。頭を撫でろという。撫でてあげると、満足して炬燵のなかに潜りこんでゆく。


 ところが、最近は、時間にかまわずお腹にのってくるようになった。それも、夜中じゅう、何回も繰り返すのである。そのたびにぼくは時計を見て、いま何時か確認する。まだ二時じゃないか、とか、三時になったばかりか、と口に出していってみる。ミーヤにきかせるつもりだが、もちろん、ミーヤにはわからない。


 もしかしてだけど、ミーヤは自分の時間が少なくなってきたのをわかってるんじゃないのかな。だから、さかんにぼくのお腹にのってくるのではあるまいか。ぼくは、夜中に猫を撫でながらそうおもった。


 でも待てよ、三毛猫が長生きだとすると、そんなわけはないな。じゃあ、なにか、持ち時間が少なくなってきたのはこちらのほうで、ミーヤはそれを察してぼくとの時間を濃密にしているということになるのだろうか。おい、ミーヤ、おせーてくれ。


 ミーヤが二十歳まであと十年、はてさて、こちらの寿命がもつだろうか。