綴じ込みページ 猫-189
ぼくの本棚は三段になっているが、奥行きがあるので、横に積み上げた本が三列詰まっている。この家に越してきたとき、遊びにきた家内の姪二人が、二階を見に駆け上がっていき、すぐに笑いながら降りてきた。
「どうしたの」
家内が二人にたずねた。
「だって」
と、二人は顔を見合わせて笑った。
「部屋の奥に本棚があるでしょ。ん、なんかヘン、とおもったら、本がみんな横向いて寝てたの」
きょう、一階の居間に置いてある本棚(これも奥まで三列)の一部を入れ替えた。単純に、二番目の列を最前列に出して、最前列のを二番目に引っ込めただけだけれど。これだけのことで、気分がずいぶん変わる。全体では、なにも変わっていないのがミソである。ぼくは面倒くさがりなので、もうこれ以上本は欲しくない。これでいいのだ。
和田誠先生の著書を二番目に下げて、奥から「色川武大 阿佐田哲也全集」を前列に引っ張りだした。となりの棚は、「吉行淳之介全集」を下げて「深沢七郎全集」を前に出した。「空海全集」をどうしようか迷ったが、そのままにした。奥の院、というではないか。
六大無礙にして常に瑜伽なり
四種曼荼各各離れず
三密加持すれば速疾に顕わる
重重帝網なるを即身と名づく
空海「即身成仏義」