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 楽しみにしていたテレビドラマのシリーズが、最近、立て続けに終わってしまった。ひとつは「シャーロック・ホームズの冒険」で、もうひとつは「ポアロ」である。録画装置がついていないので、必ずじかに観なければならないのには困った。ブラウン管式のテレビが地上波の問題で観られなくなったとき、泣く泣く取り替えたテレビだ。奮発して世界の亀山ブランドの液晶にしたのだが、ちょうどお金のないときで、工事費を考えるととても録画装置にまで手がまわらなかった。


 帽子を購入してから、ひとのかぶっている帽子が妙に気になる。地下鉄のなかでも、しぜんと帽子に眼がいくようになった。で、テレビに登場する帽子もついしげしげと見てしまう。


 シャーロック・ホームズのかぶっている帽子は、ずっとシルクハットだとばかりおもっていた。シルクハットは、あの、手品師が鳩をだす帽子である。ところが、よく見たら、ホームズのかぶっていたのは中折れのホンブルグハットだった。チャーチルの帽子と同じ帽子である。翌日、エルキュール・ポアロも、やはりホンブルグハットをかぶっていた。


 ホンブルグハットを流行らせたのは、エドワード八世である。皇太子のとき、保養に訪れた西ドイツの温泉地で流行っていたこの帽子をたいそう気に入り、自国に持ち帰ってかぶっていたところ、たちまち上流階級のあいだで流行した。その後、アメリカでも流行し、一般のビジネスマンにも広く愛用された。西ドイツの温泉地、ホンブルグの名をとってホンブルグハットと呼ばれる。


 ホンブルグハットの起こりは、イタリアのトリノでタバコ会社の労働争議があったとき、紛糾のさなか、怒った労働者が仲介役の代議士をステッキで殴りつけ、かぶっていた山高帽のてっぺんがへこんだことに由来する。代議士は、へこんだ帽子を名誉の帽子としてかぶりつづけ、その結果、中折れ帽子が流行りだしたのだそうである。


「小さいおうち」も、「世界史の極意」も、それから「西東三鬼全句集」も手に取らず、よけいなことに薀蓄を傾けたりしているというのは、よくない傾向である。テーブルに重なった本の上にミーヤがすわってこっちを見ている。いま、ぼくの灰色の小さな脳細胞を占領しているのは、いったいなんなんだろう。