綴じ込みページ 猫-197

 子供の頃、テストのとき、最後に見直しをして、ついつい書き直してしまい、失敗したことがよくあった。


 今回の句会の兼題に「寺」とあって、一計を案じて前書に寺を入れた。いわく「本願寺にて」。


 築地本願寺には、野良猫ながら守衛さんに世話をされている猫がいる。ぼくは、通りすがりに見かけると、ニャンニャン、と声をかける。ニャンニャンは、彼女の名前である。もっとも、ぼくがつけた名だから、ほかの人になんと呼ばれているかはわからない。


 ぼくが築地に移ってきてすぐの頃、通り抜けのために境内を歩いていたら、とつぜん、足に頭からぶつかってきた猫がいた。それがニャンニャンだった。遊びたいのかとおもって立ち止まったけれど、ニャンニャンはうつむいたまま、とぼとぼと歩き去った。


 ニャンニャンは気まぐれで(猫だからね)、毛づくろいをしているときに頭やからだを撫でてあげると、目を細めてじっとしていることもあったり、そばにしゃがもうとしただけでぷいと横を向いて行ってしまうことがあったりする。はぐらかされた気分で、ニャンニャン様はご機嫌ななめか、と口に出したら、通りすがった人に怪訝な顔をされた。なんだか忙しげに歩いているときもあって、そういうときは、ニャンニャン、元気か、と声だけかける。


 句会に出した句と、はじめにこしらえた句を並べてみる。ウルサガタのいて丁さんは、なんというだろう。猫はもう十分だよ、と一言で切り捨てられるかもしれない。前書は、もちろん「本願寺にて」。


    蹲居の水飲んでゐる恋の猫 飛行船
    恋猫や蹲居の水飲んでをり 同