綴じ込みページ 猫-200

 猫の飼い主のすべてがロイヤルカナンを信奉しているわけではない。あたりまえの話である。それぞれの家庭に一家言あり、飼い主は、自分の愛する猫のために最良の食事を用意するのである。


 ミーヤ歴二年目に、ぼくはミーヤをよろこばせたくて、近くの鶏肉屋でささみを購入した。どれくらい買ったらいいのかわからなくて、二百グラム買った。鶏肉屋のご主人に、猫にあげるのですが、茹で時間はどれくらいがいいですか、ときいた。


 いわれたとおりにささみを茹でて、いつもの食器にこまかく切ってミーヤを呼んだ。なんとなく浮かない風情で、あくびなんかしながらミーヤが現れた。せっかく、縁側に寝転んで通りを通る人間を観察していたのに、ごはんだよ、なんて呼ぶから、仕方なくきてあげたのよ、といった態度だった。ぼくは、いまに見ろ、わたしったらこんな態度でわるかったわ、とおおいに反省させてやる、と息巻いてうかがっていた。


 ミーヤは、食器をのぞいて、においをかいだ。わー、おいしそう、といった雰囲気ではない。なにこれ、どうしたっていうの、という表情でぼくを見上げた。それから、もう一度食器に頭を落とすと、ちょっと口をつけたように見えた。そして、あーあ、たべたくないもーん、と小さい声で鳴いた。


 ぼくは、ささみをゴミ袋にあけると、ロイヤルカナンを秤で計って、食器に入れなおした。ミーヤの鼻先に、これがいいのか、といって差し出すと、これよこれ、といって食べだした。


 とりのささみが、無駄になってしまった。ぼくは、残ったささみをまとめて茹でると、マヨネーズとケチャップで和えて、一気に口に運んだ。
(つづく)