綴じ込みページ 猫-202

 英王女の名前が、「シャーロット・エリザベス・ダイアナ」に決定した。なんだかずいぶんと気をつかった名前で、ウィリアム王子夫妻の人柄がしのばれるようである。
 

 王女は、五月二日生まれ。干支は、乙未である。四月二日生まれだったら、ミーヤと同じだったのに。ミーヤは、丙戌。イヌ年生まれのネコである。


 ぼくのカミサンも乙未生まれで、ということは、同じ干支がひとまわりするのに六十年かかるから、今年還暦ということになる。ま、いまもいたらの話だけれど。


 ぼくがフジヤ・マツムラに入社したのは、昭和五十二年のことだった。まだ、大学に籍があるときで、腰掛けのアルバイトのつもりで入社した。そろそろ二十八歳になろうかというころで、学生相手のアルバイトを探しても(青学のご利益も失せて)採用してもらえなくなっていた。


 銀座五丁目、六丁目の銀座凮月堂とみゆき通りをはさんで向かい合った古いビルの一階に、フジヤ・マツムラはあった。厚いガラスのドアをあけると、そこだけ時間の止まったような空間がひろがっていた。

 面接は、近くのビルの七階にある事務所で受けた。雑居ビルで、二階と三階にフランス料理のエスコフィエが入っていた。
 案内してくれた女子社員に、エレベーターのなかで、応募者はだいぶ来たのかたずねてみた。
 いいえ、と彼女は答えた。あなたが最初です。六年後、ぼくはその女性と結婚した。
(つづく)