綴じ込みページ 猫-217

 台風の影響で雨の降った朝、会社に向かって築地本願寺の境内を歩いてゆくと、ニャンニャンがいた。梅雨で雨の日がつづいたので、会うのは久しぶりだった。ニャンニャンは、雨に濡れたコンクリートにしゃがんで毛づくろいをしていた。


 ニャンニャンは、おもしろい眼のかたちをしている。ちょうどお椀みたいに、上半分が平らに見える。それは、眼の上の毛が庇のように張り出しているからで、そんな眼で見上げるからよけいショボッとして見える。猫も、ブスのほうがかわいい。


ニャンニャン、元気か」
 と声をかけると、ちょっと顔をあげて、あ、いつものあいつだ、といった表情でぼくを見た。そして、すぐにまた体を舐めだした。
「そんな水のたまったところにすわっていると、お尻が濡れるぞ」
 といって通りすぎたが、よくよく考えたら、うちのミーヤもよくキッチンの流しの濡れたところにしゃがんでいることがある。
 

 ミーヤは、ごはんといっしょに置いてある容器の水は飲まないで、なぜかキッチンの流しに水を張って置いてあるボール(洗い物に使うプラスティックの)から水を飲んでいる。たっぷりあるから飲みたくなるのだろうか。


 水がおいしくなると評判の陶磁器の容器を、ミーヤがくるまえに用意したのだが、いつも新鮮な水を入れてあるわりには飲んだ気配がない。四年間、ただ水を入れて置いてあるだけである。たまに、走りまわって蹴飛ばして、そこらが水浸しになっていることもある。


 ミーヤは、なんで流しの濡れたところにわざわざすわっているのだろうか。猫の習性に詳しいかたがいらしたら、教えてください。