綴じ込みページ 猫-236

 藤田嗣治が猫好きだったのは有名である。平凡社の「作家の猫」でも、ほんの数ページだが、その横顔が描かれている。猫を顔の脇に捧げ持った写真に添えられたキャプションには、こうある。


盛り場から夜遅くパリの石だたみを歩いての帰りみち、
フト足にからみつく猫があって、
不憫に思って家に連れて来て飼ったのが
1匹から2匹、2匹から3匹となり、
それをモデルの来ぬ暇々に眺め廻し描き始めたのが
そもそものようです。
ひどく温柔(おとなしや)かな反面、あべこべに猛々しいところがあり、
二通りの性格に描けるので面白いと思いました。
                     (『巴里の昼と夜』)


 ぼくの場合は、足にからみついた猫を不憫におもって連れ帰ったわけではなかった。単純に同居人がほしかったのである。まあ、犬でもよかったし、猫でもよかった。
 犬は、ご存じとおもうが、孤独に弱い動物である。昼間の時間をひとりぼっちでいるなんて、とてもできない相談だろう。もともと群れで生活する習性があるのだから当然である。もし、いま、マンションで一日ひとりきりになる状況で飼われている犬がいるとしたら、本当に気の毒である(例外はもちろんあるだろうが)。
 犬は、どんな小型犬でも、一日にすくなくとも一回は散歩が必要である。雨の日も、風の日も、雪の日だって嵐だって、原則必要なのである(例外はもちろんあるだろうが)。自分が一人暮らしの飼い主で、毎日毎日、一年三百六十五日、一日も欠かさず飼い犬の散歩につき合えるかどうか考えたとき、じつにこころもとない気がした。
(つづく)