綴じ込みページ 猫-237

 猫は、飼い主たちによると、ごはんと水と(トイレ用の)砂だけ用意しておけば、あとは平気で留守にできるし、帰りの時間を気にする必要もない、とのことだった。一日じゅうほっぽっといても、場合によっては(ごはんと水と砂があれば)二三日ほっぽりっぱなしでもだいじょうぶ、といった。犬にくらべて飼いやすい、ということを、猫好きのだれもが強調した。


 むかし、高校生のころ、友だちの家に遊びにいくと、どこからか猫がやってきて、なんとなくぼくの膝にのってきた。畳の部屋だから、座布団を敷いてあぐらをかいているのだが、そのあぐらのなかにもぐりこんできた。
「これ、おまえんちの猫?」
 ぼくは、猫の頭を撫でながらきいた。
「うん」
 気のなさそうな声で友だちは頷いた。
「猫飼ってたんだ」
「まえには犬も飼ったことあるよ」
「犬はどうしたの?」
「死んじゃった」
「なんで、また、犬、飼わなかったの?」
「おやじが、犬かわいがってたんだけど、もうこんな思いするのはいやだって」
「猫ならいいのかよ」
「猫は、犬ほど手がかからないから、その分、情が薄いんだってさ」
「ふーん、そんなものかね」
(つづく)