綴じ込みページ 猫-245

 うちの炬燵は、夏場はテーブルになるタイプだけれど、ぼくはだんだん横着になって、いちいち布団をたたまなくなった。週一回の掃除のとき以外は、敷きっぱなしである。ただし、夏場は、薄物の上掛けだけれど。
 自分が、なんだか坂口安吾のようで、なんなら無頼派だとおもえばいいや、とうそぶいていた。毎朝五時半にきちんと起きて、決まった時間にちゃんと出勤する無頼派である。


 六畳の和室のとなりは、十畳のフローリングのキッチン・ダイニングである。四人掛けの丸テーブルと椅子が窓際に据えてある。その脇の壁には食器棚が立っている。あの大地震のときには、この食器棚が倒れてガラスが割れ、ミーヤが血だらけになっている気がして、もう居ても立ってもいられなくなり、銀座から一心不乱に歩いて帰った。あのときは、すぐにでもこの食器棚を固定しなくては、と決意したのに、なぜかまだそのままである。


 この十畳の出入口は、二枚の硝子戸で、玄関前の廊下につづいている。しかし、そのうちの一枚は猫のケージのせいで完全にふさがれている。このケージは、木枠に鉄格子がはまっている、いわば猫の小屋で、けっこうな大きさである。横にわたした板が、三段になっており、猫は気が向けばそこで寝ていることもある。出入り口は、いつもあけてある。


 なにかのときにここに閉じ込めておこうとおもったわけであるが、なにかのときなんかないので、閉じ込めたことはない。ここにひとつ、猫のトイレを置いてある。トイレは、もう一つ、二階用に用意したが、二階には上がらせないことにしたので、冷蔵庫の前に予備として置いてある。もっとも、ミーヤは予備とはおもっていないようで、そのときどきの気分であっちこっちで用を足している。癖をつけたのは人間の責任だが、トイレが二つあると費用も二倍になる。
 トイレは二層になっていて、猫砂といわれる木製のチップを敷き詰めた下に、木屑を固めて板にした吸水ボード(この場合はおしっこ)がある。吸水ボードは毎週取り替えるが、木製チップを取り替えるのは月一回である。
 一週間、ずっとケージのトイレを使っていたくせに、パパが吸水ボードを取り替えようとしているのを見て、もう片方にノコノコ入っていって満足そうな表情でおしっこしていたのはミーヤだね。やれやれ。
(つづく)