綴じ込みページ 猫-246

 ミーヤをもらうことになったとき、「花王のニャンとも清潔トイレがいいですよ」と教えてくれたのは、鶉さんだった。鶉さんちには、ウカちゃんという可愛い女の子がいる。れっきとした舶来の純血種で、まさに深窓の令嬢である。このお嬢は、けっこう強く噛むことがあるそうで、品種はカム猫かもしれない。


 ニャンとも清潔トイレは、一階用と二階用が必要と考えて、二個注文した。結局、一階で暮らしてもらうことにしたから、一個だけで間に合ったのだけれど、ぼくが日中留守にしているとき、ミーヤが何回も同じトイレを使うのは気の毒なので、二個置くことにした。可哀想たあ、惚れたってことよ、である。


 ぼくの家はちっぽけな家だが、トイレは一階と二階にひとつずつある。カミサンの親父さんが生きていたときは、一階のトイレは親父さんだけが使っていた。親父さんがなくなると、カミサンが一階、ぼくが二階のを使うようになった。なんだか棲み分けという言葉が浮かんでくる。でもって、いまは、一階のトイレをぼくが使っている。


 おかしなもので、二階のトイレも、使わないのに掃除が必要である。水洗便器は、常に流していないと、黒いリングが水際にでるようになるからである。ぼくは、毎週、日曜日に、四カ所のトイレを掃除している。そして、それはこれからもつづくのだが、べつに感慨はない。「木を植えた男」という絵本がもてはやされたことがあったが、特別なことじゃないんじゃないかな。
(つづく)