綴じ込みページ 猫-251

 そらきた、と警戒する向きもあるだろうが、せっかくだから(なにがせっかくなものか)俳句帖にしたためた三十五句をあらためて並べてみる。題簽は「飛行船 猫句抄」。つつがなきや。


    のどかさや頬にふれたる猫のひげ
    三毛なればミーヤと名づけん春の雪
    足に猫ふるるやぬるき春炬燵
    恋猫や可愛くつてちよつと馬鹿
    猫のぞく障子の穴の春めきて
    猫の耳薄し春光透けるほど
    飼ひ猫の妻に似てくる四月馬鹿
    そら豆や猫のぬけ毛の目立つ頃
    不定形の猫眠りつつ夏に入る
    猫の子のまだ届かざる青簾
    縁側の猫にさしたき日傘かな
    まぼろしの鱶猫とゐる夏座敷
    河童忌や猫は胡瓜を好まざる
    夏の夜猫眠りをり静かなり
    名月や家に帰れば猫がゐる
    猫の秋ひたすらたどる家路かな
    縁側に猫待つてゐる良夜かな
    左内坂猫背で下る野分かな
    仕合せな猫をりにけり花芒
    食卓に猫と葡萄とパリ日記
    台風の夜はラヂオと猫抱いて
    熱燗にふれてつまみし猫の耳
    数へ日や猫仏壇に眠りをり
    天に星地に猫のゐるクリスマス
    主よパンと身寄りなき猫ありがたう
    猫抱いて所在なきなり小晦
    人も猫も六白金星初暦
    いとほしや今年抜けたる猫のひげ
    三ヶ日猫の番するにらみ鯛
    捨てられし猫とやもめの寝正月
    松過ぎて猫は去年と同じ顔
    これやこの豆まきの猫はしやぎをり
    豆まきの豆追ふ猫よ永遠に
    暖かし猫の寝息も雨音も
    桜のしべ降るミーヤは寝てゐる