大木あまり共著句集「猫二〇〇句」『春』

 春    熱き舌


春風のやうに猫きて糞をせる (まり)
猫の子のはやばや闘志みせにけり
子猫にも熱き舌あり花杏
子猫の爪切つてベニスへ行く話
菜の花や猫の柩は布一枚
猫死んで若布の桶に日がいつぱい
招かざる猫の来てゐる雛祭
出不精猫桜は待つてくれません (でぶしょうねこ)
春荒や子猫は土器の匂ひして
猫のタオルごはごは乾く春の暮
細魚たべ猫よ真昼をはかなくあれ (さより)
この家の喪の色にして恋の猫
あやまちは猫飼ひしこと水うらら
春の地震あり定位置に招き猫 (ない)
恋猫に眠らぬ町のごみ袋
O嬢に拾はれ子猫目を張れり
傷つきし猫をかくまふ花の闇
我が猫の不器用な恋静観す
フランスパンにこはごは乗つて子猫かな
恋猫や雨を吸ひたる新聞紙
春は曙鑢のごとき猫の舌 (やすり)
恋猫を羽交ひじめして男の子
蘆の角猫にも思想ありにけり
猫つるむ海底のごと春の闇
風筋に我を待つ猫春の暮
恋猫や世界を敵にまはしても
恋猫は絵本のなかに帰りけり