大木あまり詩画集「風を聴く木」『3-夢を見る木』

 夢を見る木


あなたとわたしは
この地球に
ちらばった
種だった。


あなたは わたしより
先に生まれても
後に生れても
いけない人だった。
あなたとわたしは
同じ時代の
さびしい共犯者で
なくてはならなかった。


それなのに
めぐり逢う季節を
どこで間違えて
しまったのか。
あなたよりわたしは
十年も早く
生れてしまった。


それでも
小麦粉当番の
十歳のあなたに
かげろうの道で
逢えたとしたら
二十歳のわたしは
やはりあなたに
恋をしただろう。


寄宿舎の
壁にあなたが描いた
夢の木に
わたしは希望の葉を
描き足したかった。


わたしたちに
運命的な
出逢いがあったとしたら
水のように 触れあい
風のように 追いあって


草の蛍のように
うっとりと
別れたかった。
あなたが美しく
滅びてゆくのを
見ていたかった。


みどりの種だった
わたしは
あれほどあなたを
呼んだのに。


めぐり逢えなかった
季節を
稲妻が
青く切り裂い
ていった。
失意の雨が
濡らしていった。


あなたの描いた
夢の木は
冷ややかな
情熱を秘め
永遠に夢を
見続けるだろう。


さびしい共犯者に
なれなかった
わたしたちのために。


同じ季節に
めぐり逢えなかった
わたしたちのために。