大木あまり詩画集「雨を聴く木」『3-窓』

 窓


マチスは窓を
象徴に愛を描いた。
ある詩人は
窓こそ 自然を飾る
額縁といい
窓こそ 真実の
名画を見せて
くれるといった。
死者さえも
小さな棺の
窓を持っている。
小鳥となって
はばたくために。


わたしの窓は
きれいなものばかり
見せてはくれない。
昨日は朴の木が伐られ
今日は桐の木が
姿を消した。
残されたのは白濁の空。
そこから生まれるのは
無気力と憎悪だけ。
毎夜わたしの窓を叩く
成仏できない
亡霊の父。
ことわりもなく
窓から侵入してくる
茶色の貧乏神と
黄色の風邪神。
魔除けに
あなたのポスターを貼った。
北窓を塞ぐように。
猫たちはしきりに
アンディ・ウォーホール
のポスターといったけど、
あなたの挑戦的な眼は
死神さえも
寄せつけはしないだろう。


ラム酒を飲みながら、 雨のニューヨーク
ハドソン川
暗い流れを思い
あなたの部屋の
黄昏を思う。
浴室の二本の
歯ブラシを思う。


酔いがまわってくると
わたしの記憶の窓に
朴の花や
桐の花が咲き出す。
死んだ猫たちも
やってくる。
それからさびしい
宴がはじまる。