大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」 P14

 雪踏んで光源氏の猫帰る


 猫の恋がはじまるのは、早春。雌を求めてさまよう雄猫の鳴き声を聞くと春の足音を感じる。
 この句の光源氏は、以前飼っていた海丸という美形の雄猫。雌猫と見れば追いかけて求愛する。夜遊びばかりして、朝帰りはいつものこと。雪の朝、決まり悪そうに雪を踏みつつ海丸が帰ってきた。「朝帰りなんて一度もしたことないのに」と主人はうらやましそうに呟いた。 (『山の夢』)