大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P38

 栗鼠の尾の土牢を掃き春遅し


 鎌倉の光則寺の裏山には土牢があり、周辺の木々を往き来するリスを見たさに俳句の仲間とよく立ち寄った。
 その日は、偶然にも土牢にリスがいた。長い尾っぽでしきりに土を擦るリスの動作は土牢を掃いているようだった。「まるでリスの俄作務僧ね」と言ったものの、彼が黄褐色の冬毛なのが気になった。その色に「春遅し」を実感した。紅椿も寒々として、今にも雪が降ってきそうだった。 (『山の夢』)