大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P42

 吉野過ぐ花千本をあをく見て


 ジプシーのような暮しが夢だった。だが、輸血が原因で肝炎となり人生の予定が狂った。それでも漂泊の思いやまず、都合をつけて旅をした。
 吉野にもたびたび桜を見に行った。桜の中を漂っていると西行や絶滅した狼に会える気がした。吉野は狼の終焉の地。最後に捕獲されたのは若い狼だったと聞く。
 夕日の桜は、若い狼への鎮魂のように、清絶なまでに青く輝いていた。 (『火のいろに』)