大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P46

 西行の耳は魔形や桜東風


 鴫立庵は、西行の〈心なき身にもあはれは知られけり鴫立つ沢の秋の夕暮れ〉の和歌で有名。もう三十数年も前のことだが、この庵には西行像があり、風貌は悪魔か鬼神かと思うほど迫力があった。ことに尖って大きな耳が印象的だった。折しも桜の季節。空より飛んでくる花びらを追いながら、私も花の季節に死にたいと思った。その思いがずっとあったからか後に〈死ぬまでは人それよりは花びらに〉の句ができた。 (『火のいろに』)