大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P74

 がちやがちやの森を壊してゐたりけり


 いろいろな虫の音があふれている夜の森で、ひときわ個性的なのが、がちゃがちゃとも呼ばれる轡虫。そのがちゃがちゃと賑やかでやかましい鳴き声が最高潮に達すると、森が壊れるのでは、と思ってしまう。それは轡虫の生態であって、雌を呼ぶ狂おしい鳴き声であり、短い命を生きている証なのかもしれない。「壊してゐたりけり」と感受し、断定する私の心が壊れていたのだ。内的なものまで投影してしまう俳句って怖い。 (『火のいろに』)