大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P78

 猪鍋や大山の闇待つたなし


 石田勝彦先生と結社「泉」の方々と大山周辺を吟行した。名物の豆腐料理が食べられると期待したものの、一行はケーブルカーで阿夫利神社へ直行。社務所の裏で秘かに豆腐のアイスクリームを食べようとしたら、「神の鹿を詠みなさい」と勝彦先生。そこで〈神鹿のひづめさびしき懐炉かな〉を作った。句会の後、猪鍋を囲んで談笑。先生の後ろの硝子戸には大山の大いなる闇が迫っていた。〈牡丹鍋みんなに帰る闇のあり〉 (『火のいろに』)